2020 旭硝子財団 助成研究発表会 要旨集
105/206

Si ナノシリンダーアレイによる蛍光体層の発光増強効果を詳細に調べる為に,可視域での吸収が小さく,高い屈折率を示す多結晶Siを用いてナノシリンダーアレイを作製し,高量子収率の蛍光体層として希土類錯体Eu(hfa)3(TPPO)2を用い発光増強効果をAl アレイと比較した3.図2 は得られたSi およびAl ナノシリンダーアレイ試料に対するs 偏光の透過率の入射角依存性を示しており,透過率の高低を色の違いで表している.図中の破線は多結晶Si およびAl ナノシリンダーアレイの周期性に起因する回折線を示しており,入射角0°において波長520 nm と500 nm から分岐している回折線はそれぞれ希土類錯体薄膜とガラスの屈折率を反映している.Si ナノシリンダーアレイ(a) における透過率の減少は個々のSi ナノシリンダーのMie 共鳴に起因しており,回折線の周りで変化していることから,局在表面プラズモン共鳴と光回折との協同モードと類似の光学特性が示唆される.Al ナノシリンダーアレイ(b) と比較し,透過率のディップが鋭いことがわかる.これは測定波長におけるSi の光吸収の低さを反映している.図3はAl 及びSi ナノシリンダーアレイそれぞれのEu錯体の発光増強度(発光波長 = 617 nm)の放射角依存性を示している.Si アレイの方が特定の放射角において最大の増強度は大きくなっているのに対し,Al は幅広い角度範囲にわたって発光増強が見られる.これはSi シリンダーアレイのMie 共鳴およびAl ナノシリンダーアレイの局在表面プラズモン共鳴との励起角度依存性を反映していると考えられる.また,Si アレイにおいてもAl と同様に回折線に沿った発光増強が観測されており,Si アレイは特定の放射角度における発光の取出し効率がAl アレイよりも優れていることが示された.加えて,電場分布のシミュレーションにおいても特定の角度においてSi アレイでの電場増強度がAl アレイよりも強くなる結果が得られた.他方Al アレイでは全角度にわたり電場増強が見られ,幅広い角度範囲で取出し効率の上昇が起こることがわかった. 3. 今後の展開 光マネジメントに関して,金属および誘電体ナノシリンダーアレイによる蛍光体層の発光増強効果と発光変換効率を実験的に研究した.誘電体ナノシリンダーアレイでは角度および波長選択的なシャープな発光増強が見られ,他方金属ナノシリンダーアレイではより幅広いい角度と波長で増強が見られた.これは誘電体ナノ粒子と金属ナノ粒子に励起されるMie 共鳴と局在表面プラズモン共鳴の性質をそれぞれ反映している.今後はこの知見を活かし,より増強度が高く,変換効率も高い最適構造をシミュレーションを援用し追及し,材料包括的な光マネジメント科学の学理構築を目指す. 4. 参考文献 1 R. Kamakura, S. Murai, Y. Yokobayashi, K. Takashima, M. Kuramoto, K. Fujita and K. Tanaka, J. Appl. Phys. 124, 213105 (2018). 2 G. Lozano, D. J. Louwers, S. R. K. Rodriguez, S. Murai, O. T. A. Jansen, M. A. Verschuuren and J. G. Rivas, Light: Sci. Appl. 2, e66 (2013). 3 S. Murai, M. Saito, Y. Kawachiya, S. Ishii and K. Tanaka, J. Appl. Phys. 125, 133101 (2019). 5. 連絡先 TEL: 075 383 2422/2420 Email: murai.shunsuke.2m@kyoto-u.ac.jp 図2.(a)Siおよび(b)Alナノシリンダーアレイ上の蛍光体層(=Eu(hfa)3(TPPO)2薄膜)の透過率T.挿入図は,この研究で使用された座標軸を持つアレイのSEM画像を示す(スケールバー:500 nm).右の挿入図は実験的な構成を示す. 図3.(a)Si(黒)およびAl(赤)ナノシリンダーアレイ上の蛍光体層からの607~625 nmの範囲で積分された発光(=I /I 0)の極座標プロット.発光はフラットなガラス基板上の同じ蛍光体層からの発光(=I 0)で規格化した.(b)[I /I 0 (Si)]/ [I /I 0 (Al)].ここで,I /I 0 (Al)およびI /I 0 (Si)はAlおよびSiアレイ上の蛍光体薄膜における測定角度範囲で積分されたI /I 0を示す.y軸が対数表示であることに注意. −99−

元のページ  ../index.html#105

このブックを見る