シリカ粒子とヤヌス粒子、シリカ粒子とセル底面の結合も見られた。また、4.0 mM以降の凝集体は塩溶液内では長時間安定だったが、純水に置換すると過半は分解してモノマーに戻り、可逆的な凝集の方が多かった。 以上より、適切な塩濃度でコロイド粒子の疎水化金面同士を選択的に安定に結合することができ、コロイドガラスのキネティクス制御に有用であることが分かった。 図1 粒子の結合の塩濃度依存性。カラー:凝集した粒子、〇:底面に固着した粒子、点線:追跡できなかった粒子。 結果2 構造緩和:次にMSDを計算し、粒子間の結合が構造緩和に及ぼす影響について調べた。まずほとんど全ての粒子がモノマーである、最初の0.0 mMの溶液におけるMSDを見ると(図2a)、φ=0.66では通常拡散に近い液体的な挙動、φ=0.71, 0.75ではΔt~10-100 [s]にガラス状態の特徴であるケージの効果が表れており、ガラス的になっていることが分かる。 図2a を見ると、4割程度の粒子が凝集しているφ=0.78、塩濃度6.0, 10.0 mMの条件でも、0.0 mMの高密度のものと同様にガラス特有の挙動が現れている。しかしこれは全粒子の平均的な挙動である。そこでφ=0.75、0.0 mMとφ=0.78、10.0 mMのデータについて、シリカ粒子モノマー、ヤヌス粒子モノマー、ヤヌス粒子ダイマー(2量体)に分けて平均のMSDを計算した。するとシリカ粒子はほとんど違いがなかったが、ヤヌス粒子モノマー、ダイマーでは明らかに10 mMの方がMSDが小さく、運動が抑制されていることが分かった(図2b, c)。このように、結合を導入することで粒子・凝集体個々のダイナミクスが大きく変化することが分かった。また、図1ではダイマー同士、モノマー同士が集まる傾向が見えており、ダイナミクスの変化には試料内の構造の不均一性が影響していることを示唆している。 以上、今回の研究により、コロイダルガラス系にin situでの粒子間の結合という要素を導入することができた。また導入した粒子同士の結合が、ガラス状態の構造やダイナミクスに大きく影響することも確認できた。 図2 各粒子の平均2乗変位(MSD)の平均をΔtに対しプロットしたもの。a:全粒子、b, c:aの0.0 mM・φ=0.75と10.0 mMの軌跡データから、粒子種別ごとに平均したもの。 3. 今後の展開 今回示した結合制御は、コロイダルガラスをモデル系として用いたガラス転移の研究におけるキネティクス制御の手法として有用なものと期待される。他方、現在のところ、当初目的としていた安定なガラス状態の実現には至っていない。その主な理由はセルが開放系であるために、実験条件を安定制御することが難しい点にある。化学結合等の他の手法を取り入れ、安定化を含む様々なガラス状態の制御につなげていきたい。 4. 参考文献 [1] S. Swallen et al., 2015. Science, 315: 353-356. 2) [2] L. Berthier and M.D. Ediger, 2016. Physics Today, 69: 40-46. 5. 連絡先 〒603-8555 京都市北区上賀茂本山 万有館 TEL: 075-705-1436 E-mail: iwashita@cc.kyoto-su.ac.jp a0.010.111100MSD [µm2]∆ [ s ]monomer (2.0 m)10.010.111101001000∆ [ s ]0.010.1111011monomer (2.7 m)dimer (2.70 mM10 mM0 mM10 mM0.010.111100MSD [µm2]∆ [ s ]monomer (2.0 m)10.010.111101monomer (2.0 mM10 mMbc0.010.111100MSD [µm2]∆ [ s ]monomer (2.0 m)10.010.111101001000∆ [ s ]0.010.111101001000∆ [ s ]11monomer (2.7 m)dimer (2.7 m)0 mM10 mM0 mM0 mM10 mM10 mM0.010.111100MSD [µm2]∆ [ s ]monomer (2.0 m)10.010.111101monomer (2.70 mM10 mM−37−
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