地球温暖化(気候変動)による気温上昇が引き起こす重大な脅威
地球温暖化とは、二酸化炭素やメタンなどの「温室効果ガス」の大気中の濃度が上がることにより、地球表面の平均気温が上昇する現象です。平均気温は、過去100年間上昇し続けており、特に20世紀後半以降は急激に上昇しています。
急な平均気温の上昇の原因である温室効果ガスが増えた原因は人間の活動にあります。18世紀後半に起こった産業革命以降、世界の工業化が進み、石炭や石油などの化石燃料の使用によって大量に二酸化炭素が大気中に排出されるようになり、その排出量は増える一方です。
地球温暖化は、長期にわたって継続的に気候の変化を引き起こします。このことを気候変動と言います。気候変動による環境の変化は、それまで少しずつ進んでいたものが「転換点」に達すると急激な変化に変わり、止められなくなってしまうといった性質を持っています。この、ひとたび越えれば取返しのつかない「転換点」を、「ティッピング・ポイント」といいます。
ドイツの気候科学者であるシェルンフーバー教授は、このティッピング・ポイントを越えたときに起こり得る急激で不可逆的な変化の中でも、雪氷圏における氷床などの融解、大気や海洋などの循環システムの変化、生態系の変化など、特に大規模で地球環境に決定的な影響を与える10余りの現象をリストアップしました。これらの現象を地球システムにおける「ティッピング・エレメント」といいます。いずれも、人類にとっては重大な脅威となりえる現象です。
たった数度、平均気温が上がるだけで、予測もつかない事態が次々と起こる可能性が出てくるのです。そのためには、ティッピング・エレメントが起きないようにすること、すなわち、そこまで平均気温を上げないことが重要になってきます。
問題解決に向けた取り組み:パリ協定(2℃目標)
2015年、フランスのパリで開催された「国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)」において、世界の196カ国以上が、地球温暖化対策のための「2℃目標」に合意しました。これは産業革命以前(温暖化が始まる前)の世界の平均気温を基準として、そこからの平均気温の上昇を2℃よりも十分に低く抑えるとともに、1.5℃までに抑えるよう努力するというものです。
2℃〜1.5℃という数値の背景には、地球温暖化を容認できる範囲内に抑えるという考え方があります。以下の図では、主なティッピング・エレメントについて、それぞれ、どれくらい平均気温が上がったらティッピング・ポイントを越える可能性があるかが示されています。平均気温の上昇を2℃〜1.5℃までに抑えることで、アマゾンの熱帯雨林への影響など、図右側の8つのティッピング・エレメントを回避できる可能性があります。いっぽう、西南極の氷床の融解など、左側の5つのティッピング・エレメントについては回避できないかもしれませんが、平均気温の上昇を抑えれば抑えるほど、これらの脅威を避けることができる可能性は高まります。
図の右端には、将来の平均気温上昇の推移を4つのシナリオに分けてシミュレーションした結果が示されています。このまま人類が化石燃料に依存して二酸化炭素を出し続ければ、待っているのはRCP8.5(赤)のシナリオです。これでは、平均気温は8℃以上も上昇してしまい、全てのティッピング・エレメントが起きてしまいます。
そして二酸化炭素の排出量削減に向けて世界が最大限に努力した場合のシナリオがRCP2.6(緑)です。もしこのシナリオを私たちが実現できれば、平均気温の上昇は1.5℃より小さくなり、逆にある時点からは下がっていきます。2℃目標を達成することができるのです。
科学者としてティッピング・エレメントについて予測するともに、国際社会に向けて働きかけ、パリ協定(2℃目標)の策定に大きく貢献したシェルンフーバー教授は、2017年に旭硝子財団のブループラネット賞を受賞しました。