30 by 30の達成に向けて
2022年第15回生物多様性条約締約国会議(COP15)で採択された、「昆明―モントリオール生物多様性枠組」では、自然の減少を止めて回復に転じるという「ネイチャーポジティブ」を2030年までに達成するという野心的な目標が採択されました。その中で示された個別目標に「30 by 30」があります。これは、2030年までに陸域と海域のそれぞれ30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようというものです。
現状に目を向けると、これまで中心的に用いられてきた保護区の指定によってカバーできたエリアは、陸域で16.1%、海域で8.01%(2024年5月現在)※1と、目標との間には大きな隔たりがあります。そして、保護区の指定は強力な保護を可能とするのと同時に開発を抑制することから、都市化などの需要と競合し、エリアの拡大には困難が伴います。
そんな中で、人間活動と両立しながら30 by 30を達成するための具体的手段として注目されているのがOECM(Other Effective area-based Conservation Measure)です。
※1 Explore the World's Protected Areas (protectedplanet.net)より
問題解決に向けた取り組み:OECM
OECMとは、Other Effective area-based Conservation Measures(その他の効果的な地域をベースとする保全対策)の頭字語で、生物多様性の保全に対し持続可能でポジティブな結果をもたらす方法で管理された地域であり、前述の保護区以外のものを指します。OECMの特徴は、産業、文化、宗教などによって保護されていたり、地域コミュニティの活動の対象となっていたりする場所など、自然保護を目的としていない場所も含まれることです。従来の保護区が主に行政によって管理され、自然保護を目的としない土地利用に制限をかけるのと比べ、より自由度が高いエリアと言えます。この特徴により、OECMは保護区を設置できない多様な場所に設置することができますが、これは生態系を連続的に保護することに役立ちます。生物多様性は、異なる生態系が互いに影響を与え合うことで豊かになります。例えば、動物が異なる地域間を移動することは、種の遺伝的多様性を保ち生存力の向上につながります。このため、隣接する保護区やOECMを含め連続した保護ネットワークを保つことが必要なのです。
OECMには、先住民が何世代にもわたって管理する森林や企業の工場敷地内にあるビオトープなどが含まれます。このような自主的な取り組みによって重要な役割を果たしてきた地域を正式にOECMとして指定することで、生物多様性の保全に対する取り組みが社会的に認識・評価される手助けとなり、保護活動の継続を促すことができます。OECMの管理者側の立場に立ってみると、例えば企業では、昨今求められている投資家やステークホルダー向けの環境関連情報の開示につなげられる可能性があります。
OECMとしての指定は保護区による対策とともに、生息域とそこに住む種を保護し、人類に生態系サービスを含む多様な便益をもたらすことが証明されています。2024年5月現在のOECMによるカバー率は、世界の陸域で1.18%、海域で0.11%※2と小さく、保護区と合わせても30 by 30の目標にはまだ及びませんが、その拡大に向けた取り組みが進められています。日本でも2023年から環境省がOECMに当たるものとして「自然共生サイト」制度を創設し、全国の民間の取り組みなどによって生物多様性の保全が図られている区域を認定しています。
※2 Explore the World's Protected Areas (protectedplanet.net)より