海洋プラスチックによる汚染【法的拘束力のある国際ルール:プラスチック条約の策定】

海洋プラスチックによる汚染

 人間社会で発生したプラスチックごみの海洋への流出が問題になっています。これらのプラスチックは海洋に生息する生物に絡まったり、誤って摂取されたりすることにより生物を傷つけ死に至らしめます。研究では、少なくとも690の生物種が海洋ごみに遭遇しており、その海洋ごみの92%はプラスチックだったと報告されています※1 。さらに絡まりや誤摂取の影響を受けた種の少なくとも17%はIUCNレッドリストに準絶滅危惧として分類されている種でした。

 また、マイクロプラスチックと呼ばれる5mm以下のプラスチックが汚染物質を吸着し、人体に蓄積され悪影響を及ぼすのではないかという懸念があり研究が進められています。マイクロプラスチックは一次マイクロプラスチックと二次マイクロプラスチックに分けられ、前者はマイクロビーズなど歯磨き粉や洗顔料の添加剤として利用されており、一度環境中に流出したものは回収することができません(一部の国では輸入・販売・製造などが禁止されています)。後者はレジ袋等のプラスチックが紫外線により劣化したり、波によって細かく砕かれることによって発生したものです。マイクロプラスチックが人体に及ぼす影響についての全容はまだわかっていませんが、すでに肺、肝臓、脾臓、腎臓、さらにはヒトの胎盤からもマイクロプラスチックが検出されています※2

 海洋プラスチックの内80%以上は陸で発生し、川などを介して海にたどり着いています※3。そして、そのほとんどは適切な収集、処理が行われなかった容器包装類やレジ袋を中心とした生活ごみが河川を通って流出したものだとされています※4。さらに、プラスチック廃棄物の発生量は、プラスチック生産量の増加を反映し、1970年代から90年代の間に3倍以上に増加し、2000年代にはさらに増加傾向が強まっています※5。プラスチックはその性質上ほとんど生分解されず、自然に分解されるまでに数百年から数千年もの時間がかかり※6、このままではプラスチックによる海洋汚染はさらに進むと考えられます。

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 2004年にマイクロプラスチックによる海洋汚染に関する初めての論文を発表した、リチャード・トンプソン教授は、同じく海洋プラスチックについて研究するタマラ・ギャロウェイ教授、ペネロープ・リンデキュー教授とともに2023年に旭硝子財団のブループラネット賞を受賞しました。

  • ※1 Gall & Thompson (2015). The impact of debris on marine life
  • ※2 UNEP WEBサイト Visual Feature | Beat Plastic Pollution
  • ※3 UNEP (2016). Marine plastic debris and microplastics - Global lessons and research to inspire action and guide policy change, United Nations Environment Programme, Nairobi.
  • ※4 原田(2020). プラスチック汚染にどう立ち向かうのか ―社会的営業免許(SLO)の可能性をさぐる―
  • ※5 UNEP WEBサイト Visual Feature | Beat Plastic Pollution
  • ※6 Barnes et al. (2009). Accumulation and fragmentation of plastic debris in global environments

問題解決に向けた取り組み:法的拘束力のある国際ルール プラスチック条約の策定※7

 プラスチックによる海洋汚染という喫緊かつ地球規模の問題について、2022年に国連環境総会で議論が行われ、法的拘束力を持った国際的なルール(プラスチック条約)を作ることが合意されました。海洋プラスチックに関する国際的な枠組みとしては2018年にG7で採択された海洋プラスチック憲章などがすでに存在しますが、アメリカや日本が署名しないなど各国の足並みが揃いませんでした。その後2019年のG20大阪サミットでは、大阪ブルー・オーシャン・ビジョンが共有されたものの、法的拘束力を持つルール作りへの合意は得られませんでした。それらに対し2022年の取り組みは、実現すれば193の国連加盟国に法的な義務を課すものとなり、規模や実効性においてこれまでの取組みとは一線を画すものになる可能性があります。

 以下に、このルールに含まれる可能性のある要素の一部を紹介します※8

①廃棄物管理の強化

  • 廃棄物の収集・分別・リサイクルのための国家レベルの指標と義務の策定
  • 埋め立てや償却など最終処分が必要なプラスチック廃棄物の発生削減目標の設定

②プラスチックの生産や使用の抑制・禁止

  • プラスチックポリマーの供給/需要/使用の低減
  • 使い捨てプラスチック製品やプラスチックに関連する化学物質などの生産や使用の禁止/段階的廃止/低減

③マイクロプラスチックの削減

  • 意図的に添加されるマイクロプラスチック※9の使用禁止/段階的廃止/削減/管理

④既に環境中に存在しているプラスチックへの対処

  • 投棄された漁網などの漁具による汚染の排除
  • 清掃活動における優良技術と優良事例のガイドラインの策定

 加盟国の中には産油国、化石燃料産業を持つ国、漂着ごみに悩まされている島しょ国など立場の異なる利害関係者が含まれており、上記の内②④など、加盟国間の主張に開きがあるものもあります。また、さらに重要な点として、この国際ルールを自主的側面の強い国別行動計画までとするか、義務的側面の強い加盟国共通の規制とするかについても論点の一つとなっています。

  • ※7 どのような形態の約束となるかは不明だが、条約が想定されることも多い
  • ※8 UNEP (2023). Potential options for elements towards an international legally binding instrument, based on a comprehensive approach that addresses the full life cycle of plastics as called for by United Nations Environment Assembly resolution 5/14より
  • ※9 マイクロプラスチックはマイクロビーズとして洗顔料や歯磨き粉に含まれる場合があります。
    

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